アメリカで医療通訳トレーニング(Bridge the gap)を受講した感想と内容

こんにちは、Japamilyのパソ子です。

アメリカで医療通訳をやってみようかなと思った経緯勉強方法については過去に書きました。

この記事では、実際にアメリカで医療通訳トレーニングに40時間通って受講した後の感想や学んだ内容をまとめていきます。

Cross Cultural Health Care Programの教科書

医療知識・経験がなくても、医療通訳トレーニングは受講する価値があるか?

私が受講したのは、40時間の通学形式スタイル。

平日に8時間ずつ、合計5日間通学しました。
5日間も平日に家族に負担がかかるのでオンラインにしようかな、とも悩みましたが結果からいうと、通学式にして100%満足しています。

受講にあたって医療知識はどれだけ必要だったか?

受講者の中には、出身国で医療従事者だったという方や、すでに医療通訳経験者である方もいました。

少々焦りましたが、医療通訳者の位置付けは患者と医療従事者のコミュニケーションを円滑に進める、という基本的な役目が第一です。

どういった病気がどのような経緯で起きる、という医療従事者のような知識が求められているわけではありません。

例えば

  • Cardiologyに行けば、動脈や静脈等の言葉が出てくると理解していること(Cardiologyに行って、卵巣や膵臓の話はでてこないよ、とわかっているよ、レベルであること)。
  • 胸の痛みの区別が的確に訳せるか:締め付けられる痛みなのか、鈍痛なのか、刺さるような痛みなのかがその言語で説明できるか)

ですので、高校で習ったくらいの人体の仕組みがわかっていることくらいは最低条件だと言えます。

必要だった基本的医療知識とあげるとすると:

  • メジャーな臓器の名前を両言語で知っていること。
  • 心臓に関することならCardiology、お産や婦人科系であればOB/GYNと、どこに問題があれば、なに科医にかかればいいかだいたいわかっている
  • 在住国と通訳国のシステム的・文化的違いに理解があること(アメリカ在住者であれば、アメリカの保険・病院システムへの理解と日本での違いの理解)
CCHCP

受講中に学ぶ医療知識

40時間の約半分を医療知識の理解に費やしました。

習った分野は以下です:

  • Cardiovascular System
  • Digestive System
  • Endocrine System
  • Musculoskeletal System
  • Nervous System
  • Respiratory System
  • Integumentary System
  • Urinary System
  • Female Reproductive System
  • Male Reproductive System

これらの分野に頻出する臓器や腺の名前や、それぞれの簡単な役目をサラっとふれました。これらの分野の専門家医の名前(例:心臓ならCardiologist)、メジャーな病名(Endocrine Systemなら甲状腺関連の病名や糖尿病)、そしてメジャーな検査の名前(循環器系ならEKGやEchocardiogram, Nervous SystemならCT Scan、産婦人科であればUltrasoundやpapsmearといった具合)をそれぞれ学びました。

母国で医療従事者をやっていた人でも、英語では専門用語を知らなかったからとても役に立った!と言っていました。

医療関係未経験の私でも、日本語ではだいたい知っている内容でしたので、『医療の話全然わかんないんだけど!!!!』とはなりませんでした。

ただし両言語で単語や表現を知っていたわけではないので、かなり勉強になりました。

クラスメイトとグループワークをしながら単語や表現を学んでいくので、オンラインで1人で勉強するよりも早く単語が覚えられたというメリットがあります。


学んだ医療通訳の基礎知識

医療現場で通訳をする立場的なことを残りの20時間で学びました。

これに関しては、めちゃめちゃ重要でかけがえのない時間となりました。

むしろ、このトレーニングを受けていない人が医療通訳をしていると考えるだけでゾクッと恐怖感を感じてしまうほど。

これから医療通訳を頼まれる方は『トレーニング受けてますか?』と聞いてください。と言いたくなるほど。(医療通訳者向けのトレーニング受けてない医療通訳者は断った方が無難と言いたい・・・)

これらの知識を知らなければ自分の命に関する場面で絶対頼みたくない、と思ったくらいです。

通訳としての大前提

だいの大前提として、ファシリテーターとしての役割を理解しているということ。通訳は主役ではない。ここでの主役は患者さんであり、主役を助ける役割の医療関係者と患者の橋渡しをする役目が通訳。

Basic role of an interpreter:

To facilitate understanding in communication between people who are speaking two different languages.

The Cross Cultural Health Care Programより

ただ、これだけではまだまだ理解は深まりません。医療通訳にはやって良いことと、踏み込んではいけない部分がきちんと定められています。

医療通訳の守るべき倫理(Code of Ethics)

  • Professionalism (プロとしての意識)
  • Respect (尊敬)
  • Impartiality (公平な立場であること)
  • Cultural Competence (文化的理解・適正)
  • Accuracy (正確さ)
  • Confidentiality (秘密を守れること)
  • Advocacy (擁護:これに関してはかなり難しいので擁護の方法・場面の理解が必要)

これらの倫理的理解を深める実際のケーススタディーをいくつもディスカッション方式で話し合いました。

Impartial(公平)であるには、家族や知り合いの通訳をいかに引き受けてはいけないか、ということ。
いくら理不尽なことがあっても患者さんの意向を第一に、通訳者の主観を絶対に入れてはいけないこと。でも、時には患者さんの擁護をする必要がある場面もあること。(これに関しては、かなりの技量を要すること)

ここでは語れないほど多くのケーススタディーについて話し合いました。

これに関する理解は、医療通訳をするにあたって必要不可欠です。通学スタイルにして心から良かった、と思えたのは、これに関するケーススタディーのディスカッション。教科書を読むだけでは絶対に理解できなかった部分まで深く話し合うことができました。

CCHCPのMedical Interpreter教科書

通訳方式の違いと使用場面

逐次通訳、同時通訳、サイトトランスレーション、サマライジングという方式について話し合いました。こちらもケーススタディーです。

  • Consecutive Interpretation
  • Simultaneous Interpretation
  • Sight Translation
  • Summarization

どの方式が、どんな場面で適しているのか。

基本的にはどのモードで進めるのか。
どう言った場合に違うモードに切り替えるべきなのか。

通訳中にぶち当たる壁とその解決方法

通訳中に経験する壁には主に4種類の障害があります。

  • Linguistic Barriers
  • Barriers of Register
  • Cultural Barriers
  • Systematic Barriers

これらの壁を、どう言った方法で見極め解決していくかをケーススタディーで学びます。

そして先ほど学んだ倫理的な部分も交えながら医療通訳者として踏み込んでいいのか、踏み込むべきではないのかも討論しました。

Bridging the Gap 医療通訳ケーススタディー

医療通訳としての流れに関する理解

医療通訳としての自己紹介方法、問題回避する方法などを
発表形式でモッキング練習しました。

残念ながら参加日本人が1人でしたので日本語の正確さをテストしてもらえるわけではありませんでしたが、流れを掴むとても良い機会になりました。

アメリカの医療システム

アメリカの保険・病院・医療従事者の簡単な説明・理解のセッションがありました。これに関しては、アメリカに住んで病院を利用したことがあれば理解している内容です。

日本とアメリカではシステムが違います。
違いを理解し、わからない人がどこに行けば説明してもらえるのかわかっていればOKです。通訳者がシステムを説明してあげなさい!ということではなく、こういった問題の場合は●●に行けば説明してもらえますよ〜と助言できる程度でOK。


(支払いであればFinancial Serviceに行けば教えてもらえますよ、と助言できる程度)

医療通訳研修を受講すべき人

医療従事者、医療通訳者はもちろん
移民を扱う職種(ソーシャルワーカーや政府機関)の人にもお勧めします。
教員や、そして企業勤務の通訳者にもお勧めです。
その理由は、業務の一環で医療通訳をするかもしれないからです。

例えば、車関係の会社で、アメリカに駐在しておられた家族。
子どもの学校や病院の通訳には、会社の通訳が同行されていました。

普段車関係・ビジネス分野しか通訳していない通訳者が
病院へ同行する場合もあるのが現状。

その場合、ここで学ぶ医療通訳の内容がかなりキーになってきます。

なので、主な業務が医療通訳でない場合も、受講するメリットは十分にあります。


まとめ

ザザーとざっくりになりましたが以上が40時間の医療通訳トレーニングで学んだことです。

特に訴訟大国アメリカで医療通訳を考えている方は、絶対にトレーニングを受けてください。1980年に身内のために医療通訳をして悲しい結果を招いたケースでは、$71millionの賠償金請求の判決がおりています。

患者さんを守る術でもあり、通訳者としての立場を守る術も学べるトレーニングです。

患者さんの声を、英語(または多言語)で伝える。

それが医療通訳の役目です。

余計なお節介はしない。
余計な意見は言わない。
余計な一言を追加しない。
自分の独断で省略しない。

常にプロとしての意識を持ち、正確に通訳をする。

それが医療通訳としての役目。

ケーススタディーをグループで討論することによって
倫理的な部分の理解を深めることができ、

医療通訳者としての立ち位置や立場が明確にわかりました。

もし、受講を迷っている方がいれば、声を大にして受講してください、と言えます。医療通訳経験者でも、医療従事者であっても受講して損はないと思います。

他州から、わざわざ飛行機に乗って宿泊してまで受講しにされている方もおられました。通学できる方は、オンライン受講よりも通学スタイルをオススメします。

ケーススタディーするにあたって、とても難しいケースばかりなのです。。。それを仲間や先生と討論できることには、かなりの価値がありました。

バイリンガルスタッフの多い病院にもぜひ取り入れてもらいたい研修なので、病院勤務の方は是非、病院に研修ができるよう打診してみてください。

私が受講した団体はThe Cross Cultural Health Care Programです。
Bridge the Gapと呼ばれる40時間のコースです。


(自費で受講し、リンクを貼ることで見返りは何もいただいていません。
受講して本当に良かったのでオススメしています。)